湖上をわたる狐 大手拓次
白い狼
湖上をわたる狐
みなぎる湖上のうへに
爪をといで啼(な)きわたる狐、
まどろみの窓(まど)をひらいて
とほく冬の國へ啼(な)いてゆく狐、
その肌に刺(とげ)の花をうゑつけて、
ゆたかに蒼茫(さうばう)の衣(ころも)をぬぎかへす。
[やぶちゃん注:「蒼茫」は、ここでは即物的には、ほの蒼暗く妖しいものである妖狐の銜えた衣のイマージュであろうが、同時に、そこを透けて対岸も見えぬ妖しい幻想の湖水の、見渡す限り青々と広がるそれをも、同時にそこに重層化させているのであろう。]