蜘蛛のをどり 大手拓次
蜘蛛のをどり
あらあらしく野のをかに歩みをはこぶ
ゆふぐれのさびれたたましひのおともないはばたき、
うすぐらいともしびのゆらめくたのしさにも似(に)て、
さそはれる微笑の釣針(つりばり)のうつくしさ。
うちつける壁(かべ)も扉(とびら)も窓(まど)もなく、
むなしくあを空(ぞら)のふかみの底(そこ)に身をなげ、
世紀(せいき)のあをあをとながれるうれひ顏のうへに、
こともなげに、ひそかにも、
うつりゆく香料のたいまつをもやしつづけた。
いつぴきの黄色い大蜘蛛(おほぐも)は
手品のやうにするすると絲をたれて、
そのふしぎな心の運命(さだめ)を織る。
ああ、
ゆふぐれの野(の)のはてにひとりつぶやく太陽の
かなしくゆがんだわらひ顏、
黄色(きいろ)い蜘蛛はた・た・たと織りつづける。
女のやうにべつたりとしたおほきな蜘蛛は、
くたびれるのもしらないで、
足も 手も ぐるぐるする眼も
葉ずれの蘆(あし)のやうに、するどくするどくうごいてゐる。
[やぶちゃん注:三箇所の太字「た」は底本では傍点「ヽ」。]