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2013/06/27

盲目の鴉 大手拓次

  盲目の鴉

 

うすももいろの瑪瑙の香爐から

あやしくみなぎるけむりはたちのぼり、

かすかに迷ふ茶色の蛾は

そこに白い腹をみせてたふれ死ぬ。

秋はかうしてわたしたちの胸のなかへ

おともないとむらひのやうにやつてきた。

しろくわらふ秋のつめたいくもり日(び)に、

めくら鴉(がらす)は枝から枝へ啼いてあるいていつた。

裂かれたやうな眼がしらの鴉よ、

あぢさゐの花のやうにさまざまの雲をうつす鴉(からす)の眼よ、

くびられたやうに啼きだすお前のこゑは秋の木(こ)の葉(は)をさへちぢれさせる。

お前のこゑのなかからは、

まつかなけしの花がとびだしてくる。

うすにごる靑磁の皿のうへにもられた兎(うさぎ)の肉をきれぎれに嚙む心地にて、

お前のこゑはまぼろしの地面に生える雜草(ざつさう)である。

羽根をひろげ、爪(つめ)をかき、くちばしをさぐつて、

枝から枝へあるいてゆくめくら鴉(がらす)は、

げえを げえを とおほごゑにしぼりないてゐる。

無限につながる闇の宮殿のなかに、

あをじろくほとばしるいなづまのやうに

めくら鴉(がらす)のなきごゑは げえを げえを げえをとひびいてくる。

 

[やぶちゃん注:太字「げえを」は底本では傍点「ヽ」。]

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