罪惡の美貌 大手拓次
罪惡の美貌
めんめんとしてつながりくる火(ひ)の柱(はしら)、
異形のくろい人かげは火のなかにみだれあうて、
犬の遠吠(とほぼえ)のやうにうづまく。
くろいからだに
眞珠の環(わ)をかざり、
あをいサフィイルの頸環(くびわ)をはめ、
くちびるに眞紅(しんく)の眼(め)をにほはせ、
とろ火(ひ)のやうにやうやうともえる火の柱のなかに、
あるひは めらめらとはひのめる火(ひ)の蛇(へび)のうそぶきに、
罪の美貌の海鼠(なまこ)は
いよいよくさり、
いよいよかがやき
いよいよ美(うつく)しく海(うみ)にしづむ。
[やぶちゃん注:視認可能な句読点を表記した。「眞珠の環をかざり、」の読点は他と異なり、殆んどカンマそっくりでしかも有意に薄く掠れているが、読点として採った。「サフィイル」サファイア。青玉。フランス語の“saphir”忠実な音訳(英語は“sapphire”)。]