(無題) 萩原朔太郎 (「月に吠える」時代の最古草稿2)
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さびしくてさびしくて町に出で
さびしくてさびしくて町を出で
利根川べりの若艸に身をなげ出す
さびしくてさびしくて眺むれば
ふるさとは白たへの山なみ
そのいたゞきをけむりはひ
私吾が胸に泪はふれる
吾が心しみじみあはれ
さびしくてさびしくて眺をつぶる。
[やぶちゃん注:底本第三巻の「未發表詩篇」の二番目(最初は既に示した「悲しみにたえざるものが夕べである」で始まる詩)に配された萩原朔太郎の最古の未発表詩の一つ(大正三年頃の製作と推定される「月に吠える」時代の草稿)。無題。取り消し線は抹消を示す。「はふれる」「眺」はママ。校訂本文は抹消部を除去した上、それぞれ「あふれる」「眼」に補正、さらに、「若艸」を「若草」、「いたゞき」を「いただき」に変えてしまっている。後の二つはやり過ぎで、最早、萩原朔太郎の原詩とは言えない。筑摩版全集校訂本文は定本テクストとは言えないのである!!!]