月下香(Tubereuse)の香料 大手拓次
香料の顏寄せ
月下香(Tubereuse)の香料
手(て)をひろげてものを抱(だ)く、
しろく匍(は)ひまはる化生(けしやう)のもの。
それは舟(ふね)のうへのとむらひの歌、
あたらしい憂(うれ)ひをのせてながれゆく、
身重(みおも)の夜(よる)の化生(けしやう)のもの。
[やぶちゃん注:「月下香(Tubereuse)」「げつかかう(げっかこう)」と読むが、ここはフランス語を附してあるので「チュべローゼ」と読むべきか。但し、綴りは“Tubéreuse”が正しい(創元文庫版はアクサンテギュなし、岩波文庫版はあり)。単子葉植物クサスギカズラ目クサスギカズラ科リュウゼツラン亜科チューベローズ Polianthes tuberosa L.。メキシコ原産。晩春に鱗茎から発芽、草丈は一メートルほどまで伸びる。八月頃、白い六弁花からなる穂状花序をつける。花穂は四五センチメートルにも達し、エキゾチックな甘いフローラル系の強い香りを放つ。特に夜間に香りが強くなる。園芸種は八重咲きのものが多いが、一重咲きの方が香りが高い(戦中に流行った中国の歌謡曲「夜来香(イエライシャン)」で知られたものと混同されたが、あれは蔓性植物であるガガイモ科テロスマ属Telosma cordata で別種である)。抽出物を香水に用いるため、ハワイや熱帯アジアなどで栽培され、現在も現地ではレイや宗教行事用に用いられている。ヴィクトリア朝時代のハワイでは葬儀花とされた。種小名 “tuberosa”はラテン語で「ふくらんだ・塊根状の」の意で、球根を形成することに由来する。異名にオランダ水仙(私の所持する仏和辞典は意味にそう書く)があるが、これは正統な単子葉類クサスギカズラ目ヒガンバナ科ヒガンバナ亜科スイセン属 Narcissus のある複数の種を通称する異名でもあり、また、この「月下香」という和名も現在では殆んど使われないものと思われる(以上は主にウィキの「チューベローズ」に拠った)。]