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2013/07/11

酒精中害者の死體 萩原朔太郞 (「酒精中毒者の死」初出形 附同詩形全変遷復元)

 

 酒精中害者の死體

 

 

あほむきに死んでゐる酒精中害者(よつぱらひ)の、

 

まつ白い腹のへんから、

 

えたいのわからぬものが流れてゐる、

 

透明な靑い血奬と、

 

ゆがんだ多角形の心臟と、

 

腐つたはらわたと、

 

らうまちすの爛れた手くびと、

 

くにやぐにやした臟物と、

 

そこらいちめん、

 

地べたはぴかぴか光つてゐる、

 

草はするどくとがつてゐる、

 

すべてがラヂウムのやうに光つてゐる。

 

こんなさびしい風景の中にうきあがつて、

 

白つぽけた殺人者の顏が、

 

草のやうにびらびら笑つてゐる。

 

 

[やぶちゃん注:『詩歌』第五巻第六号・大正四(一九一五)年六月号に掲載された。太字「らうまちす」は底本では傍点「ヽ」。標題「中害者」「あほむき」「中害者」「血奬」「くにやぐにや」は総てママ。

 

 後に詩集「月に吠える」初版(大正六(一九一七)年二月感情詩社・白日社出版部共刊)に所収されたものは以下の通り。

 

   *

 

 

 酒精中毒者の死

 

あふむきに死んでゐる酒精中害者(よつぱらひ)の、

 

まつしろい腹のへんから、

 

えたいのわからぬものが流れてゐる、

 

透明な靑い血醬と、

 

ゆがんだ多角形の心臟と、

 

腐つたはらわたと、

 

らうまちすの爛れた手くびと、

 

ぐにやぐにやした臟物と、

 

そこらいちめん、

 

地べたはぴかぴか光つてゐる、

 

草はするどくとがつてゐる、

 

すべてがらぢうむのやうに光つてゐる。

 

こんなさびしい風景の中にうきあがつて、

 

白つぽけた殺人者の顏が、

 

草のやうにびらびら笑つてゐる。

 

   *

 

太字「らうまちす」及び「らぢうむ」は底本では傍点「ヽ」(以下同じ)。御覧の通り、行空きは、ない。

 

 その後の「月の吠える」再版(大正一一(一九二二)年三月アルス刊)では、

 

   *

 

 酒精中毒者の死

 

あふむきに死んでゐる酒精中毒者(よつぱらひ)の

 

まつしろい腹のへんから

 

えたいのわからぬものが流れてゐる

 

透明な靑い血漿と

 

ゆがんだ多角形の心臟と

 

腐つたはらわたと

 

らうまちすの爛れた手くびと

 

ぐにやぐにやした臟物と

 

そこらいちめん

 

地べたはぴかぴか光つてゐる

 

草はするどくとがつてゐる

 

すべてがらぢうむのやうに光つてゐる。

 

こんなさびしい風景の中にうきあがつて

 

白つぽけた殺人者の顏が

 

草のやうにびらびら笑つてゐる。

 

   *

 

と読点が除去される。

 

 その後の昭和三(一九二八)年三月第一書房刊の「萩原朔太郎詩集」でも、この詩形が維持され、

 

   *

 

 酒精中毒者の死

 

あふむきに死んでゐる酒精中毒者(よつぱらひ)の

 

まつしろい腹のへんから

 

えたいのわからぬものが流れてゐる

 

透明な靑い血漿と

 

ゆがんだ多角形の心臟と

 

腐つたはらわたと

 

らうまちすの爛れた手くびと

 

ぐにやぐにやした臟物と

 

そこらいちめん

 

地べたはぴかぴか光つてゐる

 

草はするどくとがつてゐる。

 

すべてがらぢうむのやうに光つてゐる。

 

こんなさびしい風景の中にうきあがつて

 

白つぽけた殺人者の顏が

 

草のやうにびらびら笑つてゐる。

 

   *

 

と、「草はするどくとがつてゐる。」の箇所に句点が打たれている以外は再版と全く同じである。従って、ここまでの萩原朔太郎自身の意識の中では、本詩の詩形は、この「萩原朔太郎詩集」版が決定稿としてあるものと考えられる。

 

 なお現行の『定本』たる筑摩版全集校訂本文、「月の吠える」の公的な――恣意的に漂白された――決定校訂本文は、

 

   *

 

 酒精中毒者の死

 

あふむきに死んでゐる酒精中毒者(よつぱらひ)の、

 

まつしろい腹のへんから、

 

えたいのわからぬものが流れてゐる、

 

透明な靑い血漿と、

 

ゆがんだ多角形の心臟と、

 

腐つたはらわたと、

 

らうまちすの爛れた手くびと、

 

ぐにやぐにやした臟物と、

 

そこらいちめん、

 

地べたはぴかぴか光つてゐる、

 

草はするどくとがつてゐる、

 

すべてがらぢうむのやうに光つてゐる。

 

こんなさびしい風景の中にうきあがつて、

 

白つぽけた殺人者の顏が、

 

草のやうにびらびら笑つてゐる。

   *

である。私個人としては、見慣れた最後のものが、私の中の萩原朔太郞の「酒精中毒者の死」では、ある。]

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