黒豹二首 中島敦
[やぶちゃん注:「河馬」歌群より。]
黑豹
ぬばたまの黑豹の毛もつやつやと春陽(はるび)しみみに照りてゐにけり
[やぶちゃん注:「つやつや」の後半は底本では踊り字「〱」。「しみみに」は副詞「茂に」で茂り満ちて、いっぱいに、の意。]
思ひかね徘徊(たもとほ)るらむぬば玉の黑豹いまだ獨り身(み)ならし
[やぶちゃん注:「徘徊(たもとほ)る」は、現代読みでは「たもとおる」で、「た」(語調整調や強意の接頭語)+ラ行四段活用・自動詞「もとほる」(「回る」「廻る」と表記し、巡る・回る・徘徊するの意)で、同じ場所を行ったり来たりして徘徊する、の意。「万葉集」以来の古語。なお、今更ながらという感じの注であるが、不明な人のために記しておくと、中島敦はこの五年前の昭和七(一九三二)年三月に、たかと結婚している。当時はまだ東京帝国大学国文科三年で満二十二歳であった。翌八年三月に卒業(卒業論文「耽美派の研究」)、四月に同大学院入学(翌九年三月で中退)と同時に横浜高等女学校教諭となっている。翌八(一九三二)年四月には長男桓(たけし)が、この昭和一二(一九三七)年一月には長女正子が生まれている(但し、正子は出生から三日後に亡くなった)。]
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