日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第七章 江ノ島に於る採集 11 モース「ハスタ・ラ・ビスタ、ベイビィ!」
図―176
この島の東端に、漁夫の家がかたまっていて、私はその何軒かを写生しようとしたが、老若男女が私の周囲にぎっしりかたまって了ったので、とうとう断念せざるを得なかった。彼等が喋舌(しゃべ)ったの喋舌らぬの! そして五歳ばかりの子供も大きな大人のように厳然たる口のききようをした。彼等は明かに、どの小舎をが写生しつつあるかを、議論していた。最初私は、ある名前がハッキリいわれるのを聞くが、写生図(図176)に例えば大きな魚の籠といったような、新しい細部をつけ加えると、非常に誇りがましい笑い声が起る。だが、大きな魚の籠は一つより多くあるので、今度は別の主張者が叫び声をあげる番になる。私は小舎を三軒写生した丈で、辛棒がしきれなくなったが、頭髪のもしゃもしゃした、皮膚の黒ずんだ土人達の長い人間道(ひとあいみち)を通じて(まったく私はその間から向うを見ねばならなかった)見る光景は、不思議なものであった。私によっかかった者の一人、二人に対して、私がスペイン語で呪詛したら、彼等は哄笑した。
[やぶちゃん注:「私は小舎を三軒写生した丈で、辛棒がしきれなくなったが、頭髪のもしゃもしゃした、皮膚の黒ずんだ土人達の長い人間道(ひとあいみち)を通じて(まったく私はその間から向うを見ねばならなかった)見る光景は、不思議なものであった。」原文は“I could stand it only long enough to get three cabins in my sketch, but it was an odd sight to look through this long lane of tangle-haired, dark-skinned natives, through which I had to sketch.”。比べてみると、石川氏が何とか分かり易く訳そうなさっているのが見て取れる。
「私がスペイン語で呪詛したら、彼等は哄笑した。」原文は“One or two leaned on me whereupon I swore at them in Spanish at which they laughed heartily.”。これってもしかしてターミネターの“Hasta la vista, baby!”だったりして!]
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