日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第七章 江ノ島に於る採集 3 私のコック
私の料理番は階下に、流しと二つの石の火鉢とから成る台所を持っている。これ等の火鉢はある種のセメントか、あるいは非常に軟かい火山岩を切って作ってある。勿論オーヴンは無く、火鉢は単に燃える炭を入れる容器であるに過ぎない。この上で料理番は煮たり焼いたりするが、鶏のローストをつくる時には、四角な葉鉄(ブリキ)を火の上に置いて鶏をのせ、その上に銅の深鍋をひっくりかえしにかぶせて、鍋の底で炭火を起し、一時的のオーブンを設け、鶏がうまくロースト出来る迄、彼は辛棒強く横に立って炭をあおぐ。図171は料理番の簡単な写生図である。鶏の雛は一羽数セント、鯖に似た味のいい魚が一セント。私は何でもが安いことの実例として、これ等の価格をあげる。
[やぶちゃん注:底本では石川氏が訳注として「オーヴン」の後に『〔窯〕』、「ロースト」の後に『〔燔肉〕』と記しておられるが、今や若き読者には、この割注の方に注を附さねばならない世界になってしまったことを、モース氏はどうお思いになられることであろう。]
車夫二人に引かせて人力で藤沢へ行った結果、私は大きな淡水産の螺(Melnia)の美事な「種」を壺に一杯集めることが出来た。車夫達がまるで海狸(ビーヴァー)のように働いて、これ等の貝を河床からひろい上げたからである。
[やぶちゃん注:これは磯野先生の前掲書によれば、八月九日のことである。
「大きな淡水産の螺(Melnia)」こんな属名はないのでおかしいと思って原文を確認すると“fresh-water snail (Melania),” となっている。これは石川氏(または編集・印刷者)の誤りである。Melania 属というのは腹足綱吸腔目オニノツノガイ上科トウガタカワニナ科 Thiaridae(これば別にトゲカワニナ科とも呼称する)に属する。ところがこの属名自体がこれまた現在使われていないので、これまたてこづった。結論から言うと、このお馴染みのカワニナ類に似た(但し、この仲間は知られたカニモリガイ上科カワニナ科 Pleuroceridae のカワニナとは上科レベルで異なる)一種の、旧属名であった。トウガタカワニナ科の多くは九州奄美以南に棲息する南方系種であり、九州以北考えられる種はタケノコカワニナ(筍川蜷)Stenomelania rufescens しかいないので、このモースの記載が正しいとするならならば本種以外には考えられない。]
私は特別な使を立てて郵便を藤沢へ送った。距離三マイル、賃銀十セント。亭主がやって来て、この使者は走る飛脚だから二セント多くかかるといった。私は丈夫そうな脚をした男がいい勢で売り出し、水を徒渉して向う側へ全速力で姿を消すのを見た。外山氏は郵便局長宛に、私の所へ来た外国郵便を特使で送るよう特に手紙を書き、それを持たせてやったが、その返事は同じ飛脚が、信じ難い程短い時間に持って帰って来た。彼は往復共、全速力で走り続けたに違いない。
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