フランツ・カフカ「罪・苦痛・希望・及び眞實の道についての考察」中島敦訳 6
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人類の發展に於ける決定的な瞬間とは、繼續的な瞬間の謂である。此の理由からして、彼等の前のあらゆるものを、無なり、空なり、とする、革命的運動は正しい。何となれば、實際には何事も起らなかつたのであるから。
[やぶちゃん注:原文。
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Der entscheidende Augenblick der menschlichen Entwicklung ist immerwährend. Darum sind die revolutionären geistigen Bewegungen, welche alles Frühere für nichtig erklären im Recht, denn es ist noch nichts geschehn.
新潮社一九八一年刊「決定版カフカ全集3」飛鷹節氏訳。
六 人間の発展の決定的瞬間は、一回限りのものではなく、たえず訪れてこようとしている。だから、これまでの一切を無効だとする革命的な精神運動は正当なのである。なぜなら、その時点では、まだなにも生じてはいないのだから。
以下、台詞の引用は総て、私の愛読書であるグスタフ・ヤノーホ著吉田仙太郎訳「カフカとの対話」(筑摩書房一九六七刊)より。
散歩するカフカとヤノーホ。
二人、街路で旗や幟を持った労働者の一団と行き合う。
カフカ「この人たちは自負と自信に満ちて揚々としています。彼らは街路を制圧しているので、そのため世界を制圧しているのだと思っています。が本当は思い違いだ。彼らの背後に、すでに書記官が、官吏が、職業政治家が、あらゆる現代のサルタンたちがのぞいている。かれらはその権力への道を拓(ひら)いてやっているのです」
ヤノーホ「大衆の力を、あなたはお信じにならないのですか?」
カフカ「私には見えるのです――この形の定まらぬ奔放な大衆の力というものが。それは飼い馴らされ、型にはめられることを望んでいます。真の革命の展開が終るところに、つねに一人のナポレオン・ボナパルトが現れるのです」
ヤノーホ「ロシア革命がより広く拡大することをお信じにならないのですか」
カフカ、一瞬口をつぐむ。そうして、ゆっくりと次のように語り出す。
カフカ「洪水が拡がるほど、水は浅く濁ってゆきます。革命の洪水が干上がる。と、後に残るものは新しい官僚主義の泥濘(ぬかるみ)にすぎないのです。人類を苛(さいな)む足枷は、官庁の書類で出来ています」
太字「見える」は底本では傍点「﹅」。]
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