日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第五章 大学の教授職と江ノ島の実験所 15
[やぶちゃん注:フォントの関係上、明朝で示す。]
日本間には、壁の真中に柱が立っているのがよくある。これは屋根を支持する為なのかも知れぬ。屢この柱に長さ五フィート、幅は柱のそれに近い位の、薄い木片がかけてある。そしてこの垂直な狭い表面に、日本の芸術家は絵なり、絵の一部分なりを描き、ちょっと明けた戸から見えるようにする。
[やぶちゃん注:ここは一行空け。次は底本では全体が二字下げでポイント落ち。]
*『日本の家庭』に掲載したものは、杉の木地に松の褐色の幹と緑の葉とを描いたもので、実に美しいというより外はなかった。反対側には別の絵が描いてあった。
[やぶちゃん注:ここは一行空け。
「五フィート」約一メートル五〇センチ。
「『日本の家庭』に掲載したもの」ちょっと分かり難い向きもあろうが、これらは柱隠しのことを言っている。『日本の家庭』は原文注では“Japanese Homes”となっているが、正確にはモースの本書と並ぶ今一つの名著“Japanese Homes and Their Surroundings”(一八八五年)を指し、当該書の第七章の“fig.299”に当該図がある。私の所持する当該書の翻訳「日本人の住まい」(斎藤正二・藤本周一訳・八坂書房一九九一年刊)から当該図と「柱隠し」の部分のみを引用させて戴く(文化庁は平面的画像を単にそのまま写しただけのものには著作権は生じないという見解を示しており、引用もここの本文理解のための許容の範囲である)。
299図 柱隠し
《引用開始》
部屋の壁面の中央に位置する柱は、柱幅いっぱいの細長い薄い杉板で飾っている。この板にも何かの絵が描かれている。板製のものではなしに、絹や錦織作りのものは掛け物 kakemono と同様に、中央上部から風帯 kaze-obi 一本だけを垂している。安物は、藁、藺、あるいは薄く細長い竹切れでできている。材料は何であれ、これが柱隠し hasira-kakusi と呼ばれるものである。――文字通り「柱を隠す」意である。木製の柱隠しは、両面に模様を施してあって、一面が汚れると裏返してもういっぽうの面を表にする。材質はふつう木目の整った黒い色の杉で、絵はこの板に直接描かれる。二九九図は、このような柱隠しの両面を示したものである。この柱隠しの装飾に芸術家は丹精を凝らす。これほど扱いにくくかつ限定された表面に絵を描くのに、どのような画題を選ぶべきかとなると、アメリカの芸術家には悩みの種となるだろう。しかし、この点は、日本の装飾家にとっては苦痛ではないのである。かれは、何かこれにふさわしい主題の絵画から、縦に細長くその一部を切り取ってくるにすぎない。たとえば、わずかに開いた戸口越しに一瞥する自然の姿が、この場にふさわしい絵を提供してくれるだろう。-絵の残余を満たすには想像が控えている。これらの柱隠しは、アメリカを市場として販路を見出しているが、その装飾に使われている色が明色であることは、日本ではこれらが大衆向きに描かれたものであることを示している。[やぶちゃん注:以下文章にはあと一文が残るが、ここよりも前の叙述に関わるので省略する。当該書をお読み頂きたい。本書に勝るとも劣らぬ素晴らしい作品で、モースじゃあないが、何より挿絵が実に美しいのである。]
《引用終了》
引用底本では「風帯」の英文“kaze-obi”の右に訳者によるママ注記がある。これは「ふうたい」と読むのが正しい。掛け物などから垂らす二本の細長い布または紙のこと。]
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