足 大手拓次
足
うすいこさめのふる日(ひ)です、
わたしのまへにふたりのむすめがゆきました。
そのひとりのむすめのしろい足(あし)のうつくしさをわたしはわすれない。
せいじいろの爪(つま)かはからこぼれてゐるまるいなめらかなかかとは、
ほんのりとあからんで、
はるのひのさくらの花(はな)びらのやうになまめいてゐました。
こいえびちやのはなをがそのはなびらをつつんでつやつやとしてゐました。
ああ うすいこさめのふる日(ひ)です。
あはい春(はる)のこころのやうなうつくしい足(あし)のゆらめきが、
ぬれたしろい水鳥(みづどり)のやうに
おもひのなかにかろくうかんでゐます。