麒麟の歌 六首 中島敦
麒麟の歌
黑と黄の縞のネクタイ鮮やけき洒落者(みやびをとこ)と見しは僻目(ひがめ)か
春の夜のシャンゼリゼエをマダム連れムッシュ・ヂラフがそゞろ歩むも
社交界の噂なるらむ麒麟氏が妻をかへりみ何かいふらしき
山高(ダービイ)も持たせまほしき男ぶり麒麟しづしづと歩みたりけり
泥濘(ぬかるみ)を避(よ)けて道行く禮裝の紳士とやいはむ麒麟の歩み
隙もなき伊達男(ダンディ)ぶりやワイシャツの汚れもさぞや氣にかゝりなむ
[やぶちゃん注:「河馬」歌群の一。
「しづしづ」の後半は底本では踊り字「〱」。
「山高(ダービイ)」“derby”米語。競馬のダービーと同単語。
「ダンディ」の促音化は前後から私が判断した。]

