岡崎武志「昭和三十年代の匂い」
名古屋への行っている間に妻の持っていた岡崎武志「昭和三十年代の匂い」(ちくま文庫2013年5月刊)を読んだ。
近年稀なる(すこぶる)²附きの面白さであった。
ただ、その面白さは僕と全くの同年齢の方々にのみ推薦する面白さである。これは作者岡崎氏と私が全く同年(僕の方が一ヶ月早い)である点、彼の当時の生活水準が僕の当時の家庭経済と大差ない点に大きく影響されているものだからである(その証拠に巻末のオタッキング岡田斗司夫氏(学年で一年後輩であり、父君が自営業者であったため、相対的に見て、やや当時の僕や岡崎氏より「ええし」の子に属するところの生活環境にあった)との対談では岡崎氏が岡田氏が外食を月一でやっていたとか聴いた辺りから、微妙に言葉がぞんざいになる辺り、思わず、その場に僕もいるような気になってニンマリしたものである(これは僕のような原体験のある人間にしか読んでいても分からないかも知れないが)。
冒頭の「1 エイトマンとたこ焼き」に始まり、
2 おはよう!こどもショーおよび米産アニメの声優
3 あの頃はまだ戦後だった
4 初めてのシングル盤
5 科学の未来が明るかった時代
6 わが家にテレビがやってきた
7 アメリカのホームドラマ
8 少年期を包んだ歌たち
9 お誕生日は不二家のお子様ランチ
10 マンガに見る日本の風景
11 誘拐、孤児、家出の願望
12 昭和三十年代の匂い
13 のら犬と子どもたち
14 大阪市電とトロリーバス
15 汲み取り便所が果たしたこと
16 おじさまの匂い
という章題のラインナップを見て貰えれば、僕が入れ込んだ理由が概ね想像出来よう。
特に「枕草子」の「昭和三十年代版『匂い』物尽くし」ともいうべき、12・15・16章は読みながら、実際に木製のゴミ箱や雨上がりの砂利道や肥溜めや溜め便所の匂いやが、馥郁と匂って来る素晴らしいものであった。
同世代の方々には、これは是非、推薦したい本である。妻は実はまだ読んでいないのであるが、恐らく僕の感銘の1/10も感じられないだろうと預言しておいた。これは妻が所謂、僕と比して相対的には、はるかに「ええし」に属した人間であることもさることながら、やはり作者の男性(男の子)の視点にこそその主な理由はある。されば同世代でも女性には、自信を持ってはお薦めしないと言い添えておこう。
而して僕は本書のブック・レビューを書くことが目的ではない。
本書の中の「ある記述」が目にとまって、どうしてもその「事実」を考証してみたくなったのである。
次のブログで、それについて述べたいと思う。暫し、お時間を頂戴する。
« 耳嚢 巻之七 蟲さし奇藥の事 (二条) | トップページ | 2013年8月7日にアトムは僕らを救ってくれるか? »