手をのばす薔薇 大手拓次
手をのばす薔薇
ばらよ おまへはわたしのあたまのなかで鴉(からす)のやうにゆれてゐる。
ふしぎなあまいこゑをたててのどをからす野鳩(のばと)のやうに
おまへはわたしの思ひのなかでたはむれてゐる。
はねをなくした駒鳥(こまどり)のやうに
おまへは影(かげ)をよみながらあるいてゐる。
このやうにさびしく ゆふぐれとよるとのくるたびに
わたしの白薔薇(しろばら)の花はいきいきとおとづれてくるのです。
みどりのおびをしめて まぼろしによみがへつてくる白薔薇の花、
おまへのすがたは生(い)きた寶石(はうせき)の蛇(へび)、
かつ かつ かつととほいひづめのおとをつたへるおまへのゆめ、
薔薇はまよなかの手をわたしへのばさうとして、
ぽたりぽたりちつていつた。