小蝦の歌 四首 中島敦
小蝦の歌
――土肥海岸所見――
潮ひきし岩のくぼみの水溜り許多(ここだ)小蝦の影ひそみゐる
飴色に陽(ひ)に透きとほる小蝦らの何か驚きにはかに乱る
幾多(ここだく)の小蝦隱れし砂煙やがて靜まり水澄みにけり
砂煙の砂の一粒一粒が音なく沈み蝦隱れけり
[やぶちゃん注:「河馬」歌群の一。昭和一二(一九三七)年の手帳日記によれば、
八月二十九日(日)長濱ヘ行ク/美シキ日ナリ。中濱、諸節、籾山、山路、泳イデ居テ、水底ヲ見ル、自分ノ影ガ映ツテヰル、ダボハゼノ逃ゲテ行クノモ見エル、バス滿員、湘南デカヘル、
とあり、この「長濱」とは西伊豆の静岡県沼津市内浦長浜の可能性が高く、土肥に近い。これらの吟詠ともよく一致する。
「諸多(ここだ)」「幾多(ここだく)」は「幾多(ここだ)」に同じ。上代語の副詞で程度や量について甚だしいさまをいう。ここはこんなにも沢山、の謂い。]

