ペリカンの歌 五首及び別案一首 中島敦
ペリカンの歌
ペリカンは水の浅處(あさど)に凝然と置物のごと立ちてゐるかも
浴(ゆあみ)して櫛梳(くしけづ)りけむペリカンの濡れたる翼(はね)の桃色細毛(ももいろほそげ)
舶來の石鹸の香(か)も匂ひなむうす桃色のペリカンの羽毛(はね)
ペリカンの圓(つぶ)ら赤目を我見るにつひに動かず義眼(いれめ)の如し
長嘴(ながはし)の下の弛(たる)みも凋(しぼ)みたりふくらむものと我は待ちしに
[やぶちゃん注:「河馬」歌群の一。最後の一首には「下の」の「下」の右に『*』が附せられ、一首の下部に『*黄なる』と記されている。しかし、これについて底本解題には注記がない。素直に読むならば歌稿自体にこのような中島敦自身の注記記号が附されていることを意味していると読める。即ち、中島敦はこの歌の別案として、
長嘴の黄なる弛みも凋みたりふくらむものと我は待ちしに
を案出していたということになる。]

