鸚鵡の歌 十首 中島敦
鸚鵡の歌
まどろみゐてふと眼をあけし赤羅(あから)鸚鵡我を見いでて意外氣(おもはずげ)なり
緋衣(ひごろも)の大嘴(おほはし)鸚鵡我を見てまた懶(もの)うげに眼をとぢにけり
娼婦(たはれめ)の衣裳(きぬ)を纒へる哲學者鸚鵡眼をとぢもの思ひをる
いにしへの達磨大師に似たりけり緋衣曳きてものを思へば
眼をとぢて日にぬくもれる緋鸚鵡の頰の毛脱(ぬ)けていたいたしげなり
緋に燃ゆる胸毛に嘴(くち)を挿入れて鸚鵡うつうつ眠りてゐるも
麻の實をついばむ鸚鵡かたへなる我を無視してひた食(は)みに食(は)む
嘴(はし)と嘴疾(と)く動きつゝまつ黑の鸚鵡の舌はまるまりて見ゆ
麻の實の殼を猛烈に彈(はじ)き飛ばす赤羅裳(あからも)鸚鵡ひたむきなるを
年老いし大赤鸚鵡翼(はね)さきの瑠璃色なるが伊達者めきたり
[やぶちゃん注:「河馬」歌群の一。]