椅子に眠る憂鬱
椅子に眠る憂鬱
はればれとその深(ふか)い影(かげ)をもつた横顏(よこがほ)を
花鉢(はなばち)のやうにしづかにとどめ、
搖椅子(ゆりいす)のなかにうづくまる移(うつ)り氣(ぎ)をそそのかして、
死のすがたをおぼろにする。
みどりいろの、ゆふべの搖椅子(ゆりいす)のなやましさに、
みじかい生(せい)の花粉(くわふん)のさかづきをのみほすのか。
ああ、わたしのほとりに匍(は)ひよるみどりの椅子(いす)のささやきの小唄(こうた)、
憂鬱(いううつ)はながれる魚(うを)のかなしみにも似(に)て、ゆれながら、ゆれながら、
かなしみのさざなみをくりかへす。
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