三日目の朝六首 中島敦 (「小笠原紀行」より)
三日目の朝
日や出でし海の上(へ)の濠(もや)金綠(きんりよく)にひかり烟らひ動かんとする
兄島を榜(こ)ぎ囘(た)み行けばちゝのみの父島見えつ朝明(あさけ)の海に
[やぶちゃん注:「榜ぎ」漕ぐの意。当字は櫂や舵の意も持つ。
「囘み」自動詞マ行下二段動詞「たむ」(回む・廻む)で、巡る、周るの意の万葉集以来の古語。]
二日二夜南に榜(こ)ぎてココ椰子のさやぐ浦廻(うらわ)に船泊(は)てにけり
[やぶちゃん注:「泊て」自動詞タ行下二段動詞「はつ」舟が停泊するの意の万葉集以来の古語。]
みんなみの浦に汽船(ふね)泊(は)て白き船腹(はら)ゆ吐き出す水に小さき虹立つ
うす綠二見の浦の水淸み船底透いて搖れ歪(ゆが)み見ゆ
群靑と綠こき交ぜ透く水に寄り來し艀舟(はしけ)搖られてゐるを