マント狒 二首 中島敦
マント狒(ひゝ)
マント狒は身長三尺餘、毛は長くして
白色。純白のマントをまとへるが如し。
但し面部と臀部のみ鮮かなる紅色(桃
色に近し)を呈す。
銀白の毛はゆたかなれどマント狒(ひゝ)尻の赤禿包むすべなし
マント狒の尻の赤さに乙女子は見ぬふりをして去(い)ににけるかも
[やぶちゃん注:「河馬」歌群の一。太字「ふり」は底本では傍点「ヽ」。
「マント狒」哺乳綱獣亜綱霊長目直鼻猿亜目狭鼻下目オナガザル上科オナガザル科オナガザル亜科ヒヒ属マントヒヒ
Papio hamadryas。イエメン・エチオピア・サウジアラビア・ジブチ・スーダン西部・ソマリアに分布(古代にはエジプトに棲息したが現在は絶滅)。体長は♂で七〇~八〇、♀で五〇~六〇センチメートル。尾長は四〇~四五センチメートル。体重は♂で二〇、♀で一〇キログラム。メスよりもオスの方が大型になり、顔や臀部には体毛がなく、ピンク色の皮膚が露出している。尻胼胝(しりだこ)が発達する。尾の先端の体毛は房状に伸長。オスの体毛は灰色で、特に側頭部や肩の体毛が著しく伸び、これがマントのように見えることが和名の由来。メスや幼体の体毛は褐色である。草原や岩場に生息する。昼間は一頭のオスと数頭のメスや幼獣からなる小規模な群れで移動しながら摂餌し、夜になると百頭以上にもなる大規模な群れを形成して崖の上などで休む。威嚇やコミュニケーションとして口を大きく開け、犬歯を剥き出しにする行動をとる。食性は雑食で、昆虫類・小型爬虫類・木の葉・果実・種子等を食べる。古代エジプトに於いては神や神の使者として崇められ、神殿の壁やパピルスに記録されたり、聖獣として神殿で飼育され、ミイラも作られた。英名の一つである“Sacred baboon”の“Sacred”(神聖な)も、このことに由来すると思われる(以上はウィキの「マントヒヒ」に拠った)。]