靑ヶ島を望む 六首 中島敦 (「小笠原紀行」より)
靑ヶ島を望む 六首
岩岫(いはくき)に波たち煙り靑ヶ島風しまく間(と)に峻嶮(こご)しくを見ゆ
舟がかりせむすべもなし岩崩(いはくえ)に波捲き返り霧けぶり立つ
八丈の南二十里靑鱶の棲むとふ海の荒き島かも
褶(ひだ)深き赭土崖の上にして靑草生えぬ乏しかれども
岩垣の岩片がくれかつがつも道あるが如し人住むといふを
[やぶちゃん注:「かつがつ」の後半は底本では踊り字「〲」。]
岩崩(くず)す荒き島根も人らゐて道をつくると聞けば哀しき
[やぶちゃん注:「靑ヶ島」は伊豆諸島の南部に位置する島嶼で、現在の住所は東京都青ヶ島村。東京から南へ三五八キロメートル、八丈島の南方六五キロメートルにある周囲約九キロメートルの火山島である。青ヶ島は典型的な二重式カルデラ火山で、島の南部に直径一・五キロメートルのカルデラ(池之沢火口)があり、その中に「丸山(別名オフジサマ)」という中央火口丘があるが、島自体はより大きな海中カルデラ全体の高まりの一つであり、青ヶ島と周辺海域は火口・カルデラ地形が幾つも重なっている。島の最高点はこの丸山を取り囲んでいる外輪山の北西部分に当たる「大凸部(おおとんぶ)」で、外輪山の外側斜面は急な崖となって海岸線に続く。このため、海沿いには殆ど平坦地が無く、高さ五〇~二〇〇メートルほどの直立する海食崖になっていて砂浜はない。集落はカルデラの外、島の北部にあって、村役場を中心に「休戸郷(やすんどごう)」と「西郷(にしごう)」の二つが存在する。現在、日本国内で最も人口の少ない地方自治体であり、二〇一三年五月一日現在の推計人口は一九三人である(以上はウィキの「青ヶ島村」及び「青ヶ島」に拠った)。]