うづまく花 大手拓次
うづまく花
そらよりみだれかかる紫琅玕(しらうかん)のうはこと、
あかつきの鳥(とり)のきもののひだに悲(かな)しみのうれひをのせ、
とほざかりゆくこのふかいもののかなしみは、
はなれ、とびはなれ、うなだれ、
さて たよりなくそぞろあるきし、
水底(みづそこ)におもかげをうつし、
しづまるこゑの柩(ひつぎ)に
あをじろい漿果(このみ)の酒(さけ)をかもしては、
ところもしらぬひとすぢの國(くに)へといそぎゆく。
ああ うれひは風(かぜ)、うれひは鳥(とり)、
あをざむい春(はる)の日(ひ)のほとりに
うつりつつ消(き)えてゆく心(こゝろ)のまぼろし。
[やぶちゃん注:「紫琅玕」「琅玕」は、希少性の高い高品質の、特別な翡翠(Jadeite ジェダイト・硬玉)の中国名で(「琅玕」とは元来は中国語で「青々とした美しい竹」を意味する語である)、英語では“Imperial Jade”(インぺリアル・ジェイド)と呼ばれる。この英語名は西太后が熱狂的な収集家であったことに由来すると言われる。但し、こうした超高級の「琅玕翡翠」の原産国は、実は中国ではなく、ミャンマーである。]