生物學講話 丘淺次郎 第九章 生殖の方法 サナダムシとジストマ
「さなだむし」では一節毎に雌と雄との生殖器官が一組づつ揃つてあるが、雙方ともに種々の部分から成り頗る複雜である。生殖器の體外に續く穴はたゞ一個であるが、は直に二本の管に分かれて居る。即ち一方は輸精管の續きで、出口に管狀の交接器を具へ、他の方は交接の際に相手から精蟲の入り來たる膣であつて、その先は輸卵管・殼腺・子宮などに連絡して居る。それ故「さなだむし」では生殖器の出口を閉ぢ、自身の輸精管から自分の膣に精蟲を移して卵を産むことが出來ぬこともない。しかし特に交接器を具えて居る所から考へると、相手を求めて精蟲を交換するのが常であって、自分一個の體内で自分の卵細胞と精蟲とを出遇はせるのは恐らく止むを得ぬ場合に限ることであらう。肝臟や肺臟に寄生する「ヂストマ」の類も、生殖器の構造は「さなだむし」と大同小異であるから、これも恐らく相手を求めて精蟲を遣り取りするのが常であらう。
[やぶちゃん注:サナダムシの生殖に関しては私の尊敬する寄生虫学者藤田紘一郎氏の「恋する寄生虫」(講談社プラスアルファ文庫二〇〇一年刊)に詳細を極める。是非、御一読あれ。]
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