峠を下りて大村に歸り夕餐をしたたむ 五首 中島敦 (「小笠原紀行」より)
峠を下りて大村に歸り夕餐(ゆふげ)をしたたむ
波の音夕べ淋しき島根にも料理屋ありて女化粧(けはひ)す
懶(ものう)げに鯨肉(くぢら)の刺身運びくる女の潰島田(つぶし)しどけなげなり
[やぶちゃん注:「潰島田」「つぶししまだ」の略称。女性の髪形の一つで島田まげの根もとを短くして髷(まげ)を押しつぶしたように低く結ったもの。特異なものではなく、江戸後期には島田髷といえばこの髷をさすほどに流行した。髷の中央を元結で結んだ箇所が凹んで潰れて見える。]
何處(いづく)ゆか流れ來りし女なる淫らにはげし白粉のあと
この島に誰か夕べを遊ぶらむ二階に燈(ひ)入り三味の音(ね)洩るゝ
濱にゐて夕浪の音(と)に立交じる三味の音(ね)聞けはいよゝさぶしも

