『風俗畫報』臨時増刊「江島・鵠沼・逗子・金澤名所圖會」より江の島の部 21 先哲の詩(3)
游江島二首 菅道伯
孤島如煙接海洲。
曾傳神女此天遊。
龍宮春鎖濤聲靜。
仙窟晝開蜃氣浮。
須有琵琶彈古曲。
欲將杯酒寄風流。
紫霞紅日堪乘興。
不信雨雲朝暮愁。
扁舟縹渺到蓬瀛。
雪鎖上宮天路淸。
濡足怒濤觀日出。
停杯危石覺雲生。
龍淵夜識金銀氣。
神窟曉聞鷄犬聲。
大藥人閒求非易。
幾時此地學仙成。
[やぶちゃん注:作者「菅道伯」は前田純陽なる人物で、彼は延享五(一七四八)年刊朝鮮通信使唱和集の「対麗筆語」の作者で正徳二(一七一二)年生であることしか調べ得なかった。識者の御教授を乞う。二首目の「蓬瀛」は底本「逢瀛」。国立国会図書館の近代デジタルライブラリーの「相模國風土記」の「藝文部」で訂した。
江島に游ぶ 二首 菅道伯
孤島 煙りのごとく 海洲に接す
曾て傳ふ 神女 此の天に遊ぶと
龍宮 春 鎖して 濤聲(たうせい) 靜かなり
仙窟 晝 開きて 蜃氣 浮く
須らく琵琶をして古曲を彈く有るべく
將に杯酒を風流に寄せんと欲す
紫霞 紅日 興に乘るに堪へたり
信ぜず 雨雲(ううん) 朝暮の愁ひ
扁舟(へんしふ) 縹渺(へうべう) 蓬瀛(ほうえい)に到り
雪は鎖す 上宮 天路 淸し
足を濡して 怒濤 日出(につしゆつ)を觀る
杯を停めて 危石 雲生(うんじやう)を覺へ
龍淵 夜識(やしき)す 金銀の氣
神窟 曉聞(げうぶん)す 鷄犬(けいけん)の聲
大藥 人閒(じんかん) 求むに易く非ず
幾時(いくとき)にか 此の地 仙を學びて成れる
「蓬瀛」中国で神山とされた蓬莱と瀛州(えいじゅう/えいしゅう)。]