莟から莟へあるいてゆく人 大手拓次
莟から莟へあるいてゆく人
まだ こころをあかさない
とほいむかうにある戀人(こひびと)のこゑをきいてゐると、
ゆらゆらする うすあかいつぼみの花(はな)を
ひとつひとつ あやぶみながらあるいてゆくやうです。
その花の
ひとの手にひらかれるのをおそれながら、
かすかな ゆくすゑのにほひをおもひながら、
やはらかにみがかれたしろい足(あし)で
そのあたりをあるいてゆくのです。
ゆふやみの花と花とのあひだに
こなをまきちらす花蜂(はなばち)のやうに
あなたのみづみづしいこゑにぬれまみれて、
ねむり心地(ごこち)にあるいてゆくのです。