黄色い接吻 大手拓次
黄色い接吻
もう わすれてしまつた
葉かげのしげりにひそんでゐる
なめらかなかげをのぞかう。
なんといふことなしに
あたりのものが うねうねとした宵(よひ)でした。
をんなは しろいいきもののやうにむづむづしてゐました。
わたしのくちびるが
魚(うを)のやうに をんなのくちのうへにねばつてゐました。
はを はを はを はを はを
それは それは
あかるく きいろい接吻でありました。
[やぶちゃん注:創元文庫版は本詩形と同じであるが、思潮社版及び岩波文庫版では以下のように載る。
黄色い接吻
もう わすれてしまつた
葉かげのしげりにひそんでゐる
なめらかなかげをのぞかう。
なんといふことなしに
あたりのものが うねうねとした宵(よひ)でした。
をんなは しろいいきもののやうに むづむづしてゐました。
わたしのくちびるが
魚(うを)のやうに をんなのくちのうへにねばつてゐました。
はを はを はを はを はを
それは それは
あかるく きいろい接吻でありました。
即ち、
・六行目の「をんなは しろいいきもののやうにむづむづしてゐました。」の「しろいいきもののやうに」の後の一字空け。
・八行目の「魚(うを)のやうに」の後に一字空けで完結する詩句存在すること。
である。特に後者は底本を読んでいても意味が通じ難く、明らかな脱文が疑われることからも、正当な補訂であると考えてよいとは思われるが、本文は敢えてそのままで出した。]
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