霧・ワルツ・ぎんがみ――秋冷羌笛賦 インドの益良雄(ますらを)の歌 五首 中島敦
(以下五首 印度益良雄の歌)
ぬばたまの夜の街角ゆ搖るぎ出づタァバン捲きし印度壯夫(ますらを)
黑き人何か口籠り指さしぬ果物店(みせ)の燈影明るきに
[やぶちゃん注:結句「燈影明るきに」は「ほかげしるきに」と読んでいるか。]
古里(ふるさと)のかぐはし山を憶ひけむ印度益良雄バナナ買ひけり
包裝(かみ)つゝむひまを術(すべ)なみ黑漢子(をのこ)をのこさびすと腕打ちふりつ
[やぶちゃん注:「をのこさびす」「さびす」の「さび」は名詞に附いてそのものらしい態度や状態であることを表わすバ行上二段型動詞を作る接尾語「さぶ」(~らしい様子だ・~らしくなる)の連用形(若しくはその名詞化したもの)にサ変「す」が附いたもので、偉丈夫を誇りかに示すように、の意。]
丈高く黑き漢子(をのこ)はバナナ持ち街のはたてに去(い)ににけるはや
[やぶちゃん注:「はたて」これは「果たて」で果て、限りの意。万葉以来の古語。]