呪ひに送られる薔薇 大手拓次
呪ひに送られる薔薇
月色の霧はくさむらにせまり、
おとさへもないひそみのなかに
ばらはひとつ
はねをおとし、
ばらはひとつ
あしをみがき、
ばらはひとつ
くちびるをうながす。
のろひにおくられる薔薇のつぼみは
ひらかうとして ひらかうとして
息(いき)をなげかはす。
うすあをと ときいろと うこんの薔薇、
はつなつの日はとほい雪にさそはれて、
しろい しろい あこがれのなやみをはき、
みどりのなかに その金のとびらをとざさうとする。
三つの薔薇は肌もあらはに、
ひとびとのおもひのうしろに
ときもなく にほひをはなたうとして、
その刺のひとみをおづおづとこらす。