十六歳の少年の顏 大手拓次
十六歳の少年の顏
―思ひ出の自畫像―
うすあをいかげにつつまれたおまへのかほには
五月(ぐわつ)のほととぎすがないてゐます。
うすあをいびろうどのやうなおまへのかほには
月のにほひがひたひたとしてゐます。
ああ みればみるほど薄月(うすづき)のやうな少年(せうんよ)よ、
しろい野芥子(のげし)のやうにはにかんでばかりゐる少年(せうんよ)よ、
そつと指(ゆび)でさはられても眞赤(まつか)になるおまへのかほ、
ほそい眉(まゆ)、
きれのながい眼(め)のあかるさ、
ふつくらとしたしろい頰(ほほ)の花(はな)、
水草(みづくさ)のやうなやはらかいくちびる、
はづかしさと夢(ゆめ)とひかりとでしなしなとふるへてゐるおまへのかほ。
[やぶちゃん注:太字「ひたひた」「しなしな」は底本では傍点「ヽ」。]