霧・ワルツ・ぎんがみ――秋冷羌笛賦 踊り子の歌 九首 中島敦
霧・ワルツ・ぎんがみ
――秋冷羌笛賦――
[やぶちゃん注:「羌笛」「きやうてき(きょうてき)」と読む。古代中国の西方の異民族である西羌人の笛及びその音を指す。グーグル画像検索の「羌笛」で独特の形状が、こちらの
YouTube 動画で実際の音色を聴くことが出来る。
以下の序は底本では以下の一行二十四字で下インデント。]
鬼神をもあはれと思はすると、いにしへ人の言ひけむ三十一文字と、な思ひ給ひそ。これはこれ、眼碧き紅毛人が秋の宵の一ときをハヷナふかしつゝ卓の上にもてあそぶてふトラムプの、「三十一(サーチイワン)」。首尾良く字數が三十一に近づきましたらば、御手拍子、御喝采の程をと、先づはいさゝか口上めきたれど。
[やぶちゃん注:「三十一」トランプ・ゲーム“thirty-one”。カードに点数が与えられ、合計が三十一に近い得点を取った者が勝つというもの。]
(以下九首 踊り子の歌)
あしびきの山の井の店に踊り子が縞のショールを買ひにけるかも
[やぶちゃん注:単なる思い付きであるが、「山の井」はショール・スカーフを扱う横浜元町辺りの店の名ではあるまいか? ご存知の通り、スカーフ・ショール・ストールは横浜の地場産業で横浜スカーフと言えばかつては世界に通用したトップ・ブランドであった。]
踊り子は縞のショールを買ひてけりあはれ今年も秋ぞ去(い)ぬめる
夕さればルムバよくする踊り子の亞麻色の髮に秋の風吹く
シュトラウスのワルツをどれば踊り子の髮はさ搖れつゆたにたゆたに
眺めつゝ寂しきものか眉描きし霧の夜頃の踊り子の顏
手にとれば薄し冷(つめ)たし柔かし生毛ほのけき踊り子の耳
亞爾然丁(あるぜんちん)のタンゴなるらしキャヷレエの窓より洩るゝこの小夜更(さよふ)けに
浮かれ男に我はあらねど小夜ふけてブルウス聞けば心躍るも
挾み消しつ灰皿に置きさて立ちぬその金口に殘る口紅(べに)はも
« 卵の月 大手拓次 | トップページ | 日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第一章 一八七七年の日本――横浜と東京 1 モース来日早々「よいとまけ」の唄の洗礼を受く »

