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« 荒寥地方 萩原朔太郎 | トップページ | 猫の死骸 萩原朔太郎 (初出形 附 改稿3種) »

2013/08/02

沼澤地方 萩原朔太郎 (初出形 附 改稿3種)

 

 

 沼澤地方

 

蛙どものむらがつてゐる

 

さびしい沼澤地方をめぐりあるいた。

 

日は空に寒く

 

どこでもぬかるみがじめじめした道につづいた。

 

わたしは獸(けだもの)のやうに靴をひきずり

 

あるひは悲しげなる部落をたづねて

 

だらしもなく 懶惰のおそろしい夢におぼれた。 

 

ああ 浦!

 

もうぼくたちの別れをつげやう

 

あひびきの日の木小屋のほとりで

 

おまへは恐れにちぢまり 猫の子のやうにふるえてゐた。

 

あの灰色の空の下で

 

いつでも時計のやうに鳴つてゐる

 

浦!

 

ふしぎなさびしい心臟よ。

 

浦! ふたたび去りてまた逢ふ時もないのに。 

 

[やぶちゃん注:『改造』第七巻第二号・大正一四(一九二五)年二月号に掲載された。「あるひは」「つげやう」「ふるえてゐた」はママ。後に第一書房版「萩原朔太郎詩集」(昭和三(一九二八)年三月刊)及び「定本靑猫」(昭和一一(一九三六)年版畫莊刊)などに所収されたが、真の最終形はやはり「宿命」(昭和一四(一九二九)年創元社刊)であり、献辞(これは「定本靑猫」で出現する。但し、そこでは『ula と呼べる女に』と、頭が小文字表記となっている)など大きな異同が認められる。以下三種をすべて示す(「宿命」版は底本の校異によって推定復元した)。

 

   *

 

【第一書房「萩原朔太郎詩集」版】

 

 沼澤地方 

 

蛙どものむらがつてゐる

 

さびしい沼澤地方をめぐりあるいた。

 

日は空に寒く

 

どこでもぬかるみがじめじめした道につづいた。

 

わたしは獸(けだもの)のやうに靴をひきずり

 

あるひは悲しげなる部落をたづねて

 

だらしもなく 懶惰(らんだ)のおそろしい夢におぼれた。 

 

ああ 浦!

 

もうぼくたちの別れをつげやう

 

あひびきの日の木小屋のほとりで

 

おまへは恐れにちぢまり 猫の子のやうにふるゑてゐた。

 

あの灰色の空の下で

 

いつでも時計のやうに鳴つてゐる

 

浦!

 

ふしぎなさびしい心臟よ。

 

浦! ふたたび去りてまた逢ふ時もないのに。 

 

   *

「あるひは」「ふるゑてゐた」はママ。

   *

 

【「定本靑猫」版】 

 

 沼澤地方

      ula と呼べる女に 

 

蛙どものむらがつてゐる

 

さびしい沼澤地方をめぐりあるいた。

 

日は空に寒く

 

どこでもぬかるみがじめじめした道につづいた。

 

わたしは獸(けだもの)のやうに靴をひきずり

 

あるひは悲しげなる部落をたづねて

 

だらしもなく 懶惰(らんだ)のおそろしい夢におぼれた。 

 

ああ 浦!

 

もうぼくたちの別れをつげよう

 

あひびきの日の木小屋のほとりで

 

おまへは恐れにちぢまり 猫の兒のやうにふるゑてゐた。

 

あの灰色の空の下で

 

いつでも時計のやうに鳴つてゐる。

 

浦!

 

ふしぎなさびしい心臟よ。

 

ula! ふたたび去りてまた逢ふ時もないのに。

 

   *

「あるひは」「ふるゑてゐた」はママ。また、横書では分からないが実は最終行の「ula!」の感嘆符は底本では横書きのままに打たれているので、区別するために半角で示した。「懶惰」の「懶」の字は「定本靑猫」では「賴」が「頼」になっているが表記出来ないので「懶」で示した。

   *

 

【「宿命」版】 

 

 沼澤地方

        Ula と呼べる女に

 

蛙どものむらがつてゐる

 

さびしい沼澤地方をめぐりあるいた。

 

日は空に寒く

 

どこでもぬかるみがじめじめした道につづいた

 

わたしは獸(けだもの)のやうに靴をひきずり

 

あるひは悲しげなる部落をたづねて

 

だらしもなく 懶惰(らんだ)のおそろしい夢におぼれた。 

 

ああ 浦!

 

もうぼくたちの別れをつげよう

 

あひびきの日の木小屋のほとりで

 

おまへは恐れにちぢまり 猫の兒のやうにふるゑてゐた。

 

あの灰色の空の下で

 

いつでも時計のやうに鳴つてゐる!

 

浦!

 

ふしぎなさびしい心臟よ。

 

浦! ふたたび去りてまた逢ふ時もないのに。 

 

   *

「あるひは」「ふるゑてゐた」はママ。但し、「獸」のルビの「けたもの」、「懶惰」の「らいだ」は音読上の齟齬を生ずるので誤植として訂した。後者はしかし、誤読であるものの、慣用的にはしばしば行われるものではあり、萩原朔太郎がこれをそう音読していなかった可能性を完全に排除することは出来ない。しかし、この「らいだ」のルビはこの「宿命」だけに存在し、先行する再録の詩集二種には「懶惰」の「懶」にのみ「らん」のルビが附されていることからも、誤植の可能性が高いように思われることから訂正した。]

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