盲目の寶石商人 大手拓次
盲目の寶石商人
わたしは 十二月のきりのこいばんがたに、
街のなかをとぼろとぼろとあるいてゆくめくらの商人(あきんど)です。
わたしの手も やはり霧のやうにあをくばうばうとのびてゆくのです。
ゆめのおもみのやうなきざはしがとびかひ、
わたしは手提の革箱(かはばこ)のなかに、
ぬめいろのトルコ玉をもち、
蛇の眼のやうなトルマリン、
おほきなひびきを人形師の絲でころがすザクロ石、
はなよめのやはらかい指にふさはしいうすむらさきのうすダイヤ、
わたしは空(そら)からおりてきた鉤(かぎ)のやうに、
つつまれた柳のほそい枝のかげにゆれながら
まだらにうかぶ月の輪をめあてに、
さても とぼろとぼろとあるいてゆきます。
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