テロリストの原理 萩原朔太郎
●テロリストの原理
個人の存在を抹殺することによって、復讐が遂げられると思うのは、低氣壓の象徴(信號燈)を壞すことによって、暴風雨を防ぎ得ると信じたところの、單純な野蠻人の思想に似て居る。けれども暗殺者等にとってみれば、象徴であることの外に、どんな宇宙の意味も實在しない。故に彼等は言うのである。否! 人間を殺すのでなく、その人間によつて象徴されてる、或る社會上の一つの意味(觀念の實在)を滅ぼすのだと。
概ねの暗殺者とテロリストとは、唯物史觀に反對して、觀念論の象徴主義を信奉してゐる。
[やぶちゃん注:昭和四(一九二九)年十月第一書房刊のアフォリズム集「虛妄の正義」の「社會と文明」より。太字「意味」は底本では傍点「●」。私はこの言い得て妙のアフォリズムが頗る好きである。]