伊豆の歌――土肥村所見 料理屋の裏戸ゆ見ゆる七輪のほのほ色なく夕暮れにけり 中島敦
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伊豆の歌
――土肥村所見――
料理屋の裏戸ゆ見ゆる七輪のほのほ色なく夕暮れにけり
[やぶちゃん注:太字「ほのほ」は底本では「ヽ」。先の「河馬」歌群の中の「小蝦の歌――土肥海岸所見――」に注した、昭和一二(一九三七)年の手帳日記によれば、
八月二十九日(日)長濱ヘ行ク/美シキ日ナリ。中濱、諸節、籾山、山路、泳イデ居テ、水底ヲ見ル、自分ノ影ガ映ツテヰル、ダボハゼノ逃ゲテ行クノモ見エル、バス滿員、湘南デカヘル、
とあり、この「長濱」とは西伊豆の静岡県沼津市内浦長浜の可能性が高く、土肥に近い。これもその折りの吟詠であろう。即ち言わずもがなであるが、各歌群内では概ね時系列になっているようには思われるものの(「小笠原紀行」などは最も美しい時系列であろう)、これらの歌稿の歌群自体の順はあくまで部立編成で、巨視的に見ると歌群自体は編年時系列で配されたものではないことが分かる。]

