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2013/08/30

耳嚢 巻之七 假初にも異風の形致間敷事

 假初にも異風の形致間敷事

 予隣へ來る廣瀨何某といへる醫師、上方の産也。壯年年比(としごろ)御當地へ來り、未(いまだ)療治も流行なさず。然れ共町家の療治抔は專らなしける。或夜四つ時過比(すぎごろ)、日々立入(たちいる)駕(かご)の者妻産氣付(さんけづき)候て不生間(うまれざるのあひだ)、來り見呉(くれ)候樣達(たつ)て相(あひ)歎き、棒組も來りて一同相賴(あひたのむ)に付、夜も早(はや)更(ふけ)ぬれば兩人駕を舁(かか)せ、其身着替も六ケ敷(むつかしく)、寒き比なれば小夜着(こよぎ)を着たる上へ帶を〆(しめ)、用心に枕元に置(おき)し長脇ざしを帶し、龜嶋町邊其所迄至りしに、右駕のものの宿より何歟(か)不知(しらず)、早く歸り給へと言捨歸(いひすてかへり)れば、右駕の者一寸參りて樣子見候迚、少しの内爰にまたせ給へと、棒組を連(つれ)一(いつ)さむに走り行(ゆき)し。少しの内なれば駕は往來に捨置(すておき)ぬ。折節兩組町廻り同心衆、往來に駕を捨有(すてあり)し故怪敷(あやしく)思ひ、内に人や有(ある)と尋(たづね)しに有(あり)と答ふ。然らば出よといふ。無據(よんどころなく)駕を出しに詰らぬ形(なり)也。彌(いよいよ)怪敷思ひて立寄(たちより)見るに、大男にて中々手に可及(およぶべき)躰(てい)に見えで□□□□駕を出しに、彼(かの)大男御身は廣瀨にあらずやと尋しに、能々見れば兼て知れる庄五郎と言る同心也。始(はじめ)て安堵して、しかじかのよし語りしと也。駕の者立歸り出産有(あり)、外に人手なし。棒組を賴(たのみ)湯をわかし、又は腰抱(だき)てさわぎて、廣瀨を向ふる心もつかざる由也。

□やぶちゃん注
○前項連関:特になし。
・「假初にも異風の形致間敷事」は「假初(かりそめ)にも異風(いふう)の形(なり)、致(いた)すまじき事(こと)」と読む。
・「予隣」岩波のカリフォルニア大学バークレー校版は『予が許(もと)』とある。
・「夜四つ時過比」午後十時過ぎ。
・「小夜着」小形の夜着。袖や襟の附いた綿入れの掛け布団の小さいもの。小さいとはいえ、冬場の夜着にこれを強引に着たわけで、もっこもこになっていたはずである。だから後文で暗い往来で見た同心が「大男にて中々手に可及躰に見え」たのではなかったか? 本文は、実は大男であったのは同心であって、それに恐れ入って広瀬が駕籠を出るというシチュエーションであるが、これではつまらぬ。ここは掟破り乍ら、恣意的に翻案改変した。悪しからず、根岸殿!
・「龜嶋町」中央区日本橋亀島町一丁目及び二丁目。
・「一さむ」底本では右に『(一散)』と注する。
・「兩組町廻り同心衆」これはおかしい。南町と北町の「兩組」の同心が見回りをすることはない。岩波のカリフォルニア大学バークレー校版は『南組町廻り同心』で、これは納得。「南町」で採る。
・「□□□□」底本は後半の「□□」は踊り字「〱」。岩波のカリフォルニア大学バークレー校版は『こわごわ』(後半は当該書では踊り字「〲」)とある。これで採る。
・「向ふる心」底本では「向」の右に『(迎)』と訂正注がある。

■やぶちゃん現代語訳

 仮初(かりそめ)にも異風の風体(ふうてい)は致すまじき事

 予の隣家に出入り致いて御座る広瀬某(なにがし)と申す医師が御座るが、彼は上方の生まれである。
 かなり壮年になってから江戸表へ来たったこともあり、未だ療治もそれ程には流行っては御座らぬ。然れども、町家の療治などは、常々誠意を以って熱心にこなして御座る由。
 さて、ある夜、四つ時過ぎ頃のことで御座った。
遠方の往診などの際に普段から使(つこ)うて御座った駕籠舁(か)きの者が駆け込んで参り、
「先生(せんせえ)! 嬶(かかあ)が急に産気づきやしたが、いっこう、ひり出る様子も、これ、ねえ。そんでもって、まあ、いひどく苦しんでおりやす! どうか一つ、来て診(み)ておくんなせえやし! たってのお願(ねげ)えだ!」
と泣きを入れ、駕籠ごと一緒について御座った相棒と一緒になってしきりに頼み込んで御座った。
 されば、夜もはや更けて御座ったに加え、二人が殊の外急かしたよって、その両人に駕を舁(か)かせ、その身は――最早、着替えする余裕も御座らねば――寒き頃のことなれば、被って御座った床の小夜着(こよぎ)をそのまま着た上へ帯を締め、夜陰なればとて、用心に枕元に置いて御座った長脇差しを挿して出かけたと申す。
 亀島町辺りまで至ったところ、前方から誰かが泡を吹いて駆けて参った様子。
 それがまさに当の駕籠舁きの者のところから参った者で御座ったが、これがまた慌てふためいて、
「と、ともかくヨ! は、早く帰ってくんない!」
と言い捨ててまた、韋駄天の如く、戻って行ってしもうた。……
 駕籠舁きの男は、
「……か、嬶に何ぞ、あったもんか?……せ、先生(せんせえ)、ち、一寸くら、先に参って……様子を見てめえりやすんで!……と、ともかくも! ええですかい! ここで! 少しのうち、ここで! お待ち下せえやしよッ!」
とこれまた、慌てふためくや、相棒の腕を引っ摑んで、鉄砲玉のように一散に走って行ってしまう。……
 ……少しのうちなればとて、駕籠は往来のど真ん中に捨て置かれた風情。
 さ……ても、そこに折柄、南組町廻りの同心衆が巡邏に参った。
 見れば往来の真ん中に駕籠を乗り捨ててある。
 如何にも、と訝しんで、
「……内に人や在る?」
と訊ねたところが、
「……在る――」
と答える。
「然らば出ませッ!」
と命ずる。
 広瀬はよんどころなく、駕籠をめくったが、先(せん)に申したようなとんでもない形(なり)なれば、すぐには身動きもとれぬ。
 同心は暗闇の駕籠内に充満するようなその奇体な影を、いよいよ怪しい奴と思い定め、さらに近寄って見たところが……
……何かゆっくらと駕籠より這い出る
……その姿は
……これ
――異様なまでに図体の膨らんだ大男……
『……こ、こ奴……なまなかなことでは手におえそうな輩ではないぞ!……』
と、同心は
――カチャ!
と鯉口を切った!
……と
……連れの配下の者に灯を差し向けられた瞬間、同心が、
「……おや? 御身は……広瀬殿では御座らぬか?!」
 よくよく見れば、これ、かねてより懇意の庄五郎と申す同心で御座った。
 広瀬はといえば、ここで初めて安堵致いて、しかじかの由を語って御座ったと申す。……
 ……さても……流石に同心のことなれば、庄五郎は自分の方こそ広瀬を奇体な大男と内心びびって御座ったことは……まあ……これ、言わなんだは申すまでも御座るまい。……
 ……さてもまた……先の駕籠屋の者はといえば、こちらはこちらで、実はたち帰ってみたところが、女房は既に半ば子をひり出して御座ったによって、外にろくな人手もなければこそ、引き連れ帰った相棒を頼みと致いて、湯(ゆう)なんど沸かさせるやら、また、己れは女房の腰なんどを後ろより抱だいて力ませるやら……広瀬を迎えに行かねばならぬということさえ最早、頭からぶっ飛んで御座ったと申す。……

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