耳嚢 巻之七 地中奇物の事
地中奇物の事
文化貮、本所邊去(さ)る何某の下屋しきにて、地を掘(ほり)て奇物を得たり。其太さ貮三寸廻(まは)り、長さ又四五寸あり。彫附有(ほりつけあり)、王瑛(わうえい)と記す。いか成(なる)品哉(や)、更に知る者なし。一説には黄金也といへ共、其證不慥成(たしかならず)、聞(きく)儘爰に記(しるす)。
□やぶちゃん注
○前項連関:特になし。十条前の「屋鋪内在奇崖事」は土中から奇体な家が出現する話で、遠く連関しているような印象は与える。
・「文化貮」西暦一八〇五年。「卷之七」の執筆推定下限は文化三年夏であるから、比較的ホットな噂。
・「太さ貮三寸廻り、長さ又四五寸あり」金色をした円柱状物体であったらしい。円柱の周囲は約六~九センチメートル、長さは約一二~一五センチメートル。真鍮製の文鎮か?……それとも、つい、エロい私は前条に牽強付会致いて……もしや……張形だったりして!……
・「王瑛」岩波のカリフォルニア大学バークレー校版は『王渶』とする。孰れも不詳。
■やぶちゃん現代語訳
地中の奇物の事
文化二年、本所辺りのさる御仁の下屋敷にて地面を掘って御座ったところ、奇しい物が出土したと申す。
円柱状の物体であって、その胴部分の円周は凡そ二、三寸程、長さはまた四、五寸はあろうとういう代物で御座った。
更によく見ると表面に彫り附けた陰刻が御座って、
――王瑛(おうえい)――
と記しあったと申す。
奇体なる形・色・重量にて、如何なる品物であるか、凡そ、知る者は、これ、御座らなんだ。
一説に黄金であると申す者も御座ったれど、それも確かな証言ではなく、その後の噂もとんと聴かずなった。
取り敢えずは当時聴いたままに、ここに記しおくことと致す。
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