夜と林檎の歌 七首 中島敦
夜と林檎の歌
冬の夜のひとりさびしみ紅(くれなゐ)の林檎さくりとわりにけるかも
[やぶちゃん注:太字「さくり」は底本では傍点「ヽ」。以下、「さつくり」も含めて同じ。]
新しきナイフ手にとり紅(くれなゐ)の林檎さくりとわりにけるかも
しろたへの小皿の上に紅(くれなゐ)の林檎さくりとわりにけるかも
[やぶちゃん注:この一首には、下に冒頭の右上に『*』が傍注され、下に『*雪白の』とある。これは本歌稿には、初句を、
雪白の小皿の上に紅(くれなゐ)の林檎さくりとわりにけるかも
とする別稿が示されていることを意味する。]
さつくりと林檎をわりぬ汁とびぬ我が眼(め)に入りぬあはれ淸(すが)しさ
紅(くれなゐ)の林檎をわれば眞白なり汁(つゆ)チカチカと雲母(きらら)の如く
[やぶちゃん注:「チカチカ」の後半は底本では踊り字「〱」。]
めづらしと林檎の種子(たね)を眺めけり今がはじめて見るにあらねど
つくづくと林檎の種子(たね)を眺めけり林檎の種子(たね)は小(ちひ)さかりけり
[やぶちゃん注:「つくづく」の後半は底本では踊り字「〲」。]
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