卵の月 大手拓次
卵の月
そよかぜよ そよかぜよ、
わたしはあをいはねの鳥、
みづはながれ、
そよかぜはむねをあたためる。
この しつとりとした六月の日は
ものをふくらめ こころよくたたき、
まつしろい卵をうむ。
そよかぜのしめつたかほも
なつかしく心をおかし、
まつしろい卵のはだのなめらかなかがやき、
卵よ 卵よ
あをいはねをふるはして卵をながめる鳥、
まつしろ 卵よ ふくらめ ふくらめ、
はれた日に その肌をひらひらとふくらませよ。
[やぶちゃん注:「おかし」はママ。「日本詩人愛唱歌集 詩と音楽を愛する人のためのデータベース」内の「藍色の蟇」(白鳳社版「大手拓次全集」の第一巻及び第二巻)では、
卵の月
そよかぜよ そよかぜよ、
わたしはあをいはねの鳥、
みづはながれ、
そよかぜはむねをあたためる。
この しつとりとした六月の日は
ものをふくらめ こころよくたたき、
まつしろい卵をうむ。
そよかぜのしめつたかほも
なつかしく心ををかし、
まつしろい卵のはだのなめらかなかがやき、
卵よ 卵よ
あをいはねをふるはして卵をながめる鳥、
まつしろい卵よ ふくらめ ふくらめ、
はれた日に その肌をひらひらとふくらませよ。
と「おかし」が正しく「をかし」と表記されている上、十三業行目も「まつしろ 卵よ」ではなく、「まつしろい卵よ」となっており、ここも七行目の「まつしろい卵をうむ。」で有意な休止が入った後、十一行目以降総てが呼びかけと命令形に雪崩れ込む構造からも、「まつしろ 卵よ」という呼びかけはリズムを崩すように思われ、脱字の可能性が高いように思われる。諸本に本詩は掲載されておらず、白鳳社版全集を所持していないため、私個人では今は校合不能である。]