耳嚢 巻之七 諸物制藥有事 その三
又(諸物制藥有事)
梅幷(ならびに)梅干を種(たね)共(とも)に切(きり)て手際を見するは廚僕(ちゆうぼく)の名技とて、もろこしがらを庖丁にて切、右もろこしがらの氣を庖丁に請取切(うけとりきる)に、梅干の種(たね)肉とも奇麗に切れる事妙也。
□やぶちゃん注
○前項連関:「諸物制藥有事」その三。対象を砕く妙法から切るそれでも連関。
・「もろこしがら」高粱(コーリャン)こと、単子葉植物綱イネ目イネ科モロコシ(蜀黍・唐黍)Sorghum bicolor の実。アフリカ原産の一年草。高さ約二メートル。茎は円柱形で節があり、葉は長大で互生する。夏に茎の頂きに大きな穂を出し、赤褐色の小さな実が多数出来る。古くから作物として栽培され、実を食用として酒・菓子などの原料や飼料にも用いる。「とうきび」ともいう。
■やぶちゃん現代語訳
諸物には相応に対象の属性を制する薬効があるという事 その三
梅並びに梅干を種と一緒に綺麗に切るという鮮やかな手際を見せることは、これ、料理人の名技として御座るが、まず唐黍(もろこし)の実をその庖丁にて切り刻み、その唐黍の実が持って御座るところの気を庖丁に移し取ってから、やおら、梅の実や梅干を切ると、これ、種・梅肉ともに、美事――スッパ!――と奇麗に切れること、これ、まっこと、不思議なことにて御座る。