『風俗畫報』臨時増刊「江島・鵠沼・逗子・金澤名所圖會」より江の島の部 21 先哲の詩(2)
游江島 高惟馨
神鼈抽碧海。
玉女降銀臺。
孤島濤聲響。
層崖水氣開。
截流經境到。
探勝踏巖來。
禹穴疏靑璧。
秦碑繡紫苔。
日升暘谷浴。
潮湧尾閭堆。
雲起迎鯤化。
珠粉産蚌胎。
蒼茫環渤澥。
咫尺縮蓬萊。
六國交天末。
群檣礙斗魁。
龍湫窺底駐。
仙窟鑿空囘。
何有迷津者。
還堪借渡杯。
[やぶちゃん注:標題は底本では「同」であるが、ちゃんと表記した。以下、十四首総て同じ(以下ではこの注は略す)。「群檣礙斗魁」の「礙」は底本では「礎」であるが、「相模國風土記」で訂した。作者は高野蘭亭。服部南郭と並ぶ荻生徂徠の高弟で嘱目されたが、十七歳の時に失明、晩年は鎌倉の景物を好み、円覚寺の傍に松濤館を築いて遊息の場とした(彼の事蹟はこちらのページを参照させて戴いた)。宝暦七年(一八六八)年没、享年五十四歳。惟馨(いけい)は名。
江島に游ぶ 高惟馨
神鼈(しんべつ) 碧海を抽(ぬき)んず
玉女 銀臺に降(くだ)る
孤島 濤聲 響きて
層崖 水氣 開く
流れを截(き)り 境(きやう)を經て 到る
勝(しやう)を探(たん)し 巖(いはほ)を踏みて 來たる
禹穴 靑璧を疏(とほ)し
秦碑 紫苔を繡(ぬひと)る
日は升(のぼ)る 暘谷(やうこく)の浴(よく)
潮は湧く 尾閭(びろ)の堆(たい)
雲起(うんき) 鯤(こん)の化するを迎へ
珠粉(しゆふん) 蚌の胎(たい)に産まる
蒼茫として 渤澥(ぼつかい)を環(めぐ)り
咫尺(しせき)にして 蓬萊を縮む
六國 天末に交はり
群檣 斗魁を礙(さまた)ぐ
龍湫 底を窺(のぞ)きて駐(とど)まり
仙窟 空を鑿(うが)ちて囘(めぐ)る
何ぞ迷津(めいしん)する者や有らん
還りて渡杯を借るに堪ふ
「渤澥」渤海の古称。「斗魁」北斗七星の第一星魁星より成る柄杓の升型部分の四星が神格化した。中国では古くから科挙試の神とされ、後に文章の神・文学の神として崇拝された。
「龍湫」「湫」は湿気が多く、水草などが生えている低湿地であるが、ここは龍窟の前部にある龍潭を指していよう。]
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