日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第七章 江ノ島に於る採集 26 仲居の仕事/舟の作り
日本の家庭で如何に仕事の経済が行われるかは、室内の仕事を見るとわかる。一例として、部屋が沢山ある宿屋の仕事は、部屋女中の一人か二人で容易になされる。寝台はなく、客は畳に寝る。寝具は綿をつめたもの。枕は軒蕎麦殻(そばがら)をつめ込んだ、小さな坐布団みたいなものに、薄い日本紙をかぶせ、軽い木箱に結びつけたもの。洗面等は戸外でやる。朝になると布団を集め、縁側の手摺にかけて風を通し、その後どこかの隅か戸棚かにたたみ上げる。軽くて箱みたいな枕は、両腕にかかえて下へ持って行き、よごれた枕かけ、即ち単に一枚の紙を取り去って、新しい一枚をのせる。十枚位を同時に結びつけたのなら、一番上のをはがす丈で、その日の仕事は、寝室の用事に関するかぎり終るのである。図189は女中が二人、枕の紙をかえている所を示す。
図―190
図190は舟二艘の写生である。遠方のは「戎克(ジャンク)」という名で知られていて、ここに表したのよりも造かに大きい。前にもいったが、舟にはペンキが塗ってなく、どれもこれも一様に、鼠がかった木材の色をしている。舟は一種の鉄釘で接合してあるらしく、これ等の釘の頭は材木の面より低く沈んでいて、その四角い穴には木片が填めてある。舟の先の方には穴があって、船尾から岸に引き上げた時、ここから水が流れ出る。
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