眞珠の歌 六首 中島敦
眞珠の歌
天鵞絨の黑き褥(しとね)に白珠(しらたま)はつぶらくに竝びしづもる
天鵞絨は褶(ひだ)を豐かに陰(かげ)つくるふかぶかとして沈む白珠
[やぶちゃん注:「ふかぶか」の後半は底本では踊り字「〲」。]
天鵞絨のけばのことごと艷めきて白珠の色盛り上りくる
[やぶちゃん注:「ことごと」の後半は底本では踊り字「〲」。]
白鈍(しろにび)に光消ちつゝ阿古屋珠(あこやだま)黑艷絹(くろつやぎぬ)の底にしづもる
白珠の光はうちにこもらふか蟲靑(むしあを)帶(お)びし乳霞色(ちちがすみいろ)
[やぶちゃん注:「蟲靑」「むしあを(むしあお)」という訓から考えると、襲(かさね)の色目(いろめ)の一名である「虫襖(むしあを)」のことか。表は青黒、裏は二藍(ふたあい)または薄色であるが、これ自体が玉虫の羽根のような暗い青みの緑色をも指す。古くは「靑(あを)」とは空や海の色を表す現在の青色系を指す場合と、草木などの緑色系の色を指す場合とがあり、この場合は真珠の色が孕む後者の雰囲気を指すのであろう。]
かぐろなす艷々絹(つやつやぎぬ)に白珠の五百箇統(いほつすばる)は見れど飽かぬかも
[やぶちゃん注:「五百箇統」多くの玉を糸に貫いたものを指す上代語。「古事記」に於いて天照大神と建速須佐之男命(すさのを)の神産み比べのシーンで建速須佐之男命は天照大神が頭髪と腕に巻いていた八坂瓊之五百箇御統(やさかにのいほつみすまる)を貰い受けて噛み砕き、吹き出した息の霧から五柱の男神を生んでいる。ここは無論、ネックレスのこと。]

