焦心のながしめ 大手拓次
焦心のながしめ
むらがりはあをいひかりをよび、
きえがてにゆれるほのほをうづめ、
しろく しろく あゆみゆくこのさびしさ。
みづのおもての花(はな)でもなく、
また こずゑのゆふぐれにかかる鳥(とり)のあしおとでもなく、
うつろから うつろへとはこばれる焦心(せうしん)のながしめ、
鬱金香(うつこんかう)の花(はな)ちりちりと、
こころは 雪(ゆき)をいただき、
こころは みぞれになやみ、
こころは あけがたの細雨(ほそあめ)にまよふ。
[やぶちゃん注:「鬱金香」単子葉植物綱ユリ目ユリ科チューリップ属
Tulipa の和名。花の埃臭い香りがスパイスのウコン(ターメリック)に似ることに由来する。]