雪のある國へ歸るお前は 大手拓次
雪のある國へ歸るお前は
風(かぜ)のやうにおまへはわたしをとほりすぎた。
枝(えだ)にからまる風(かぜ)のやうに、
葉(は)のなかに眞夜中(まよなか)をねむる風(かぜ)のやうに、
みしらぬおまへがわたしの心(こゝろ)のなかを風(かぜ)のやうにとほりすぎた。
四月(ぐわつ)だといふのにまだ雪(ゆき)の深(ふか)い北國(ほつこく)へかへるおまへは、
どんなにさむざむとしたよそほひをしてゆくだらう。
みしらぬお前(まへ)がいつとはなしにわたしの心(こゝろ)のうへにちらした花(はな)びらは、
きえるかもしれない、きえるかもしれない。
けれども、おまへのいたいけな心づくしは、
とほい鐘(かね)のねのやうにいつまでもわたしをなぐさめてくれるだらう。
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