マリイ・ロオランサンの杖 大手拓次
マリイ・ロオランサンの杖
――ロオランサンのある畫を思ひて――
空(そら)にいつぽんのとかげをさがし、
あをみをはぎ、
霧(きり)をはきかけ、
たちのぼる香爐(かうろ)のなかに三年(ねん)のいのちをのばし、
さて 春(はる)のそよかぜにひとつの眼(め)をひらかせ、
秋の日だまりにもうひとつの眼(め)をあかせ、
月(つき)をわり、日(ひ)をふりこぼして、
鐘(かね)のねの咲(さ)きにほふ水(みづ)のなかにときはなす。
うしなはれた情景(じやうけい)はこゑをつみたて、
顏(かほ)をみがき、
ひとり ひとり 息(いき)をはく、
その草(くさ)の芽(め)のやうな角(つの)をおとして。
[やぶちゃん注:本作がローランサンのどの絵に触発されたいものか、捜しあぐねているが、残念なことに私は個人的に彼女の絵は好きではないので、どうも探索の手が鈍る。識者の御教授を乞うものである。]