日の光今朝や鰯の頭より 蕪村 萩原朔太郎 (評釈)
日の光今朝や鰯の頭より
正月元旦の句である。古來難解の句と稱されて居るが、この句のイメーヂが表象してゐる出所は、明らかに大阪のいろは骨牌であると思ふ。東京のいろは骨牌では、イが「犬も歩けば棒にあたる」であるが、大阪の方では「鰯の頭も信心から」で、繪札には魚の骨から金色の後光がさし、人々のそれを拜んでゐる樣が描いてある。筆者の私も子供の時、大阪の親戚(舊家の商店)で見たのを記憶して居る。或る元日の朝、蕪村はその幼時の骨牌を追懷し、これを初日出のイメーヂに聯結させたのである。この句に主題されてゐる詩境もまた、前の藪入の句と同じく、遠い昔の幼い日への、侘しく懷かしい追憶であり、母のふところを戀ふる郷愁の子守唄である。蕪村への理解の道は、かうした子守唄のもつリリカルなポエジイを、讀者が自ら所有するか否かにのみかかつて居る。
[やぶちゃん注:昭和一一(一九三六)年第一書房刊「郷愁の詩人與謝蕪村」の「冬の部」より。]

