曼珠沙華 北原白秋
曼珠沙華 北原白秋
GONSHAN.(ゴンシヤン) GONSHAN. (ゴンシヤン) 何處(どこ)へゆく
赤い、御墓(おはか)の曼珠沙華(ひがんばな)、
曼珠沙華(ひがんばな)、
けふも手折りに來たわいな。
GONSHAN.(ゴンシヤン) GONSHAN. (ゴンシヤン) 何本か。
地には七本、血のやうに、
血のやうに、
ちやうど、あの兒の年の數(かず)。
GONSHAN.(ゴンシヤン) GONSHAN. (ゴンシヤン) 氣をつけな。
ひとつ摘(つ)んでも、日は眞晝、
日は眞晝、
ひとつあとからまたひらく。
GONSHAN.(ゴンシヤン) GONSHAN. (ゴンシヤン) 何故(なぜ)泣くろ。
何時(いつ)まで取っても、曼珠沙華(ひがんばな)、
曼珠沙華(ひがんばな)、
恐(こは)や赤しや、まだ七つ。
(「思ひ出」(明治四四(一九一一)年)より。「ゴンシヤン(ゴンシャン)」は柳川方言で「良家のお嬢さん」をいう語。……この歌はマザー・グースのような翳を持った詩で、古来、彼岸花はその毒を以って堕胎薬とされたのであった。……)